アジア選手権大会は奇数年に個人戦+団体戦の形式で開催されてきましたが、昨年からアジア選手権大会が翌年の世界卓球選手権の予選を兼ねることになり、昨年は偶数年でありながらも開催されました。そして今年は団体戦のみで開催されました。
昨年の大会、女子団体は(早田ひな選手は試合には出られなかったものの)決勝で中国を破って優勝する、歴史的快挙を成し遂げました。連覇を目指した今大会、北朝鮮との死闘を乗り越えて決勝まで進出しましたが、中国の高くて厚い壁に阻まれて準優勝(銀メダル)でした。
*アイキャッチ画像はテレ東卓球情報のXポストからの引用です。
大会の仕様
- 今年はシングルスのみによる男女団体戦。おそらく偶数年は個人戦のみになると予想。
- 団体戦は本戦から6ヶ国+予選リーグを勝ち上がった2ヶ国の計8ヶ国によるトーナメント戦。
- 前回大会の結果が6位までだったチームが本戦から出場。そのため決勝トーナメントで6位以内の成績を残さないと2年後の大会で苦しくなる。
- 予選リーグは14ヶ国が4グループに分かれてラウンドロビン方式で戦い、各グループの1位が1回戦いその勝者が決勝トーナメントに進出。
- 予選敗退チームを含めて5位以下のチームは順位決定戦を戦う。
- 全試合5ゲームマッチ。
- 優勝したチームに付与されるWRポイントは250。それを勝利貢献度に応じて分配。
アジア選手権大会独特の仕様
- 決勝トーナメントは8ヶ国で行われますが、うち6ヶ国は前回大会の成績で選ばれます。
- 前回大会に出場しなかった国の扱いは、ATTUが決定します。例えば中国が不参加だった場合、次回大会で中国のシードをどうするかが課題になります。現在のチームランキングを無視した仕組みになっています。
- 上位6ヶ国に入れなかった場合、次回大会で予選ラウンドから戦うことになります。
- 決勝トーナメントの初戦は準々決勝で、ここで勝つとメダルが決定(3位決定戦がないため)し、準決勝に進みます。準々決勝で負けると5-8位決定戦に回ります。
- 5-8位決定戦の結果で、5-6位決定戦、7-8位決定戦に進みます。
- 優勝チームが次回大会で第1シード、準優勝チームが第2シードになり、決勝戦まで当たりません。事実上、中国と決勝戦まで当たらないようにするには、毎大会決勝進出することがポイントになります。
- ベスト4は次回大会でシードされるものの、1/2のどちらの山に入るかはドロー運任せです。
- 5位、6位と予選ラウンドを勝ち上がってきた2チームはシード外なので、どの山に入るかはドロー運任せです。
世界卓球2026ロンドン大会(団体戦)の出場資格付与条件
今大会は世界卓球2026ロンドン大会(団体戦)の予選を兼ねていますが、アジア地区から16チームが出場できるため、今大会に決勝トーナメントから出場する日本男女チームには自動的に出場資格が付与されます。
大会情報
- 期間:2025年10月11日から15日
- 場所:インドのブバネーシュワル(日本との時差3.5時間、現地10:00が日本の13:30)
- 出場種目:団体戦
- 参照:ITTFの公式サイト、日本卓球協会の公式サイト
選手選考基準
ざっくり言うと2025年全日本選手権大会シングルス優勝者+WR最高位選手2名+強化本部による推薦2名の合計5名です。
伊藤美誠選手は出場資格がありましたが、辞退したようです。理由は公表されていません。
ネット中継
- ATTUのYouTubeチャンネルがT1からT6をリアルタイム配信しました。地域制限はなく、問題なく視聴できました。
- が、ATTUのアーカイブは最長11時間55分で、1日の最後の試合が途中で切れているのが非常に残念です。
- テレビ東京卓球チャンネルは生配信にもアーカイブの公開にも参加しませんでした。
今大会の見どころ
高樹ミナさんによる、今大会の見どころ解説記事。
前回大会での早田ひな選手
2024年10月に開催された前回大会では、早田ひな選手は怪我からの回復途中であったため団体戦に出場することはありませんでした。その団体戦でチームは決勝で中国を破って優勝しました。
団体戦の後に行われたシングルスの初戦(R64)を、早田ひな選手は怪我の再発のために棄権しました。
今大会、チームは連覇を目指して戦いますが、前回大会でチームに貢献できなかった悔しさを胸に、大会に臨んだことでしょう。
団体戦:準優勝(銀メダル)
日本は前回大会で優勝していたので、本戦(決勝トーナメント)からの登場でした。ドローの結果、予選を通過したシンガポールはインドと、タイは中国と対戦することになりました。
日本は確率1/4で当たる北朝鮮を引きました。初戦(準々決勝)の相手としては最も避けたい国でしたが(できれば反対の山に入って欲しかった)、チーム全員が力を振り絞って死闘を制し、準決勝に進みました。
そして決勝で中国と対戦しましたが、高くて厚い壁を超えることができず、0-3負けで準優勝(銀メダル)でした。
表彰式。
準々決勝
北朝鮮チームとの対戦でした。強敵です。日本は張本美和選手、早田ひな選手、大藤沙月選手が出場しました。次のオーダーでした。
- 張本美和-チャ・スヨン
- 早田ひな-キム・クムヨン
- 大藤沙月-パク・スギョン
- 張本美和-キム・クムヨン
- 早田ひな-チャ・スヨン
4試合がフルゲームになった死闘を、ゲームカウント3-2で制してメダルを確定させました。
試合結果を伝える記事。
こちらは解説が詳しいです。
第1試合
張本美和選手とチャ・スヨン選手の対戦でした。
チャ・スヨン選手が強くてフルゲームになりましたが、最終ゲームは流れをつかんで圧倒しました。
フル動画。
第2試合
早田ひな選手とキム・クムヨン選手との対戦でした。初対戦です。
キム・クムヨン選手は恐ろしいほど強く、フルゲーム8本で惜敗しました。
- 第1ゲーム、キム選手の球質に対応できずミスを続けリードを許す展開が続きます。3-9と大量リードされたところから修正し、あらゆる技術を出して9-9で追い付きます。キム選手のゲームポイントをしのいでデュースに持ち込みますが、点を取りに行ったフォアハンドがミスになって10-12でこのゲームを落とします。
- 第2ゲーム、接戦で点差が開かない展開が続きます。10-9と先にゲームポイントを握りますが、デュースに持ち込みます。心臓に悪い展開が続く中、最後はキム選手のサーブミスで17-15でこのゲームを取り返します。
- 第3ゲーム、ラリー戦で打ち負け、異質ラバーの変化に惑わされて流れを渡してしまいます。キム選手のフォアハンドは正確で威力もあります。反撃できずに11-4でこのゲームを落としてしまいます。
- 第4ゲーム、第3ゲームの悪い流れを断ち切れずに1-4スタートとなりますが、冷静なプレーで追い上げます。早田選手、良く声が出ています。9-7から難しいラリー戦を制して絶叫します。11-8でこのゲームを取り返します。勝負は最終第5ゲームへ。
- 最終第5ゲーム、キム選手にリードを許す展開が続きます。惜しいところで決めきれず、あと1本が遠く、8-11で負けてしまいました。
悔しい敗戦になりましたが、WTTシリーズに出場せずめったに対戦できないキム・クムヨン選手とフルゲームを戦えたことは貴重な経験になったはずです。
フル動画。
第3試合
大藤沙月選手とパク・スギョン選手の対戦でした。
パク・スギョン選手が強くてフルゲームになりましたが、最終ゲームは流れをつかんで圧倒しました。
フル動画。
第4試合
張本美和選手とキム・クムヨン選手との対戦でした。
キム・クムヨン選手は恐ろしいほど強く、0-2からフルゲームに持ち込んだものの、最終ゲームで突き放されてしまいました。
フル動画。
第5試合
早田ひな選手とチャ・スヨン選手との対戦でした。初対戦です。
第1ゲームを落としますが、第2ゲーム以降修正し、早田ひな選手らしいプレーで勝ち切りました。
- 第1ゲーム、ゲームへの入りが悪く流れを渡してしまいます。レシーブが甘くなって強打される、得点源のサーブ3球目攻撃をカウンターされるなど、自分の展開を作れずに6-11でこのゲームを落とします。
- 第2ゲーム、負けるわけにはいかない試合、ハイトスサーブに変更し、サーブレシーブではチキータ系技術を増やして対応します。徐々に早田選手がペースをつかめるようになり、11-7でこのゲームを取り返します。
- 第3ゲーム、ハイトスサーブからの3球目攻撃で得点できるようになり、リードを保つ展開が続きます。早田選手、良く声が出ています。早田選手らしいプレーが増えて11-6でこのゲームも取ります。
- 第4ゲーム、接戦で点差が開かない展開が続きます。8-8からサーブ3球目攻撃を連続で決めてマッチポイントを握り、絶叫します。ベンチは総立ちです。最後、厳しい打ち合いを制して11-8で勝ち切り、両手拳を何度も振りました。計り知れないプレッシャーに耐え、苦しい試合に勝利することができました。
ベンチにいるチームメイトからの熱い声援を力に変えて全能力を出し切り、接戦を制してエース起用に応えました。本当に勝てて良かったです。僕が忘れることができない試合がひとつ増えました。
北朝鮮のエース、キム・クムヨン選手に2敗したものの、出場した選手3人が1勝ずつ上げて準決勝進出、メダルを確定させました。
フル動画。残念ながら第3ゲーム途中で切れています。
準決勝
シンガポールチームとの対戦でした。準々決勝でインドチームとの激戦を制し、大会前の予想を覆してメダルを確定させました。日本は張本美和選手、橋本帆乃香選手、大藤沙月選手が出場しました。次のオーダーでした。
- 張本美和-サー・リンチャン
- 橋本帆乃香-ゾン・ジエン
- 大藤沙月-ロイ・ミンイン
- 張本美和-ゾン・ジエン
- 橋本帆乃香-サー・リンチャン
チームは3-0で勝ちました。決勝進出です。
試合結果を伝える記事。
第1試合
張本美和選手とサー・リンチャン選手の対戦でした。
しっかり勝ち切りました。
フル動画。
第2試合
橋本帆乃香選手とシンガポールのエース、ゾン・ジエン選手の対戦でした。橋本帆乃香選手は国際大会の団体戦初登場です。
快勝でした。まったく負ける気がしませんでした。
フル動画。
第3試合
大藤沙月選手とロイ・ミンイン選手の対戦でした。ロイ・ミンイン選手は14歳、今大会出場選手中最年少です。
快勝でした。
フル動画。
決勝
中国チームとの対戦でした。日本は橋本帆乃香選手、張本美和選手、早田ひな選手が出場しました。次のオーダーでした。
- 橋本帆乃香-王曼昱
- 張本美和-孫穎莎
- 早田ひな-蒯曼
- 橋本帆乃香-孫穎莎
- 張本美和-王曼昱
チームは0-3で敗れました。中国の壁は高かったです。
試合結果を伝える記事。
第1試合
橋本帆乃香選手と王曼昱選手の対戦でした。
第1ゲームを先取したものの、第2ゲーム以降は堅い守りに阻まれてしまいました。カットマン対策が進んでいる印象でした。
フル動画。
第2試合
張本美和選手と孫穎莎選手の対戦でした。
絶対女王には隙がありませんでした。
フル動画。
第3試合
早田ひな選手と蒯曼選手の対戦でした。初対戦です。
ミスが増えて自滅した形になりました。でも蒯曼選手は強かったです。
- 第1ゲーム、早田選手がリードを保つ展開が続きます。仕上がりは良さそうです。11-8でこのゲームを取ります。
- 第2ゲーム、早田選手が冷静なプレーでリードを保つ展開が続きます。良く声が出ています。9-5と大量リードしますが、そこから蒯曼選手の逆襲に会い9-9で追い付かれます。ゲームポイントを握ったものの決めきれずデュースに持ち込まれます。長くなったサーブを打たれ、甘くなったレシーブを痛打されて10-12でこのゲームを落としてしまいます。このゲームの終盤の戦い方は悔いが残ったはずです。
- 第3ゲーム、サーブレシーブで攻められず、もったいないミスもあって流れを渡してしまいます。蒯曼選手は甘いボールを見逃しません。6-11でこのゲームも落とします。
- 第4ゲーム、あらゆる技術を駆使して得点を重ね、なんとかリードを保つ展開が続きます。9-7からロングサーブがミスになり、9-9からの攻めたレシーブも待たれて対応されてしまいます。最後バックハンドフリックがオーバーになり、9-11で悔しい敗戦となりました。
蒯曼選手が強かったのは確かですが、早田ひな選手がもったいないミスを減らせていたら勝てたかも、という試合内容でした。この悔しい敗戦を糧に、さらに強くなるはずです。
フル動画。
まとめ
- メダル決定戦で北朝鮮と当たる厳しいドローでしたが、チーム全員で乗り越えてメダルを確定させました。
- 決勝の中国戦では中国の壁の高さと厚さを再認識する結果になりました。
- 中国には負けましたが、準優勝(銀メダル)という素晴らしい結果を残しました。次回大会も第2シードで中国とは決勝戦まで当たりません。
- アジア選手権大会は従来2年に1回の開催で団体戦と個人戦の両方が実施されていましたが、それだと試合スケジュールが過密で選手の負担が大きかったです。おそらく今年から毎年開催で奇数年は団体戦、偶数年は個人戦になると思われます。
- 前回大会のネット中継は史上最悪なものでしたが、今大会はATTUの配信に一切の制約がなく、観たい試合はすべて観ることができました。
大会終了後
表彰式後の女子チーム
準優勝おめでとうございます。みんなそれぞれの想いを胸に、さらに強くなるために精進することでしょう。
引用:日本卓球協会のXポスト
帰国後のインタビュー
必見です。お疲れの中、私服の上に代表ジャージを羽織ってインタビューに応えていました。